鉦の演奏について考えていること
和知野 由香



はじめに…


今、良いお囃子とはどういうものなのかを考えてみると、観客の方々(素人の方々)に受け入れられる演奏こそが、良い音楽だと思う。
観客の方々にウケないと、「素人に何が分かる!」 「自分達さえ楽しければそれでいいんだ!」 などと言う人が多い。実際、今
思えば私も良い演奏をしたいと、ただ漠然と考え、観客の方々のことを考えもしない時期があった。
演奏する以上、観客の方々に受け入れられない音楽は、根本的にダメ。観客の方がたとえ一人であったとしても、その方に受け入れてもらえるように考えながら演奏することを、大前提に考えている。
そうしたなかで、私が日頃、鉦の演奏について考えていることを書いてみた。



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鉦というポジション





鉦はよく四助(よすけ)とも呼ばれ、他の四つの楽器を助けるポジションと言われている。私自身、本当にそうでなければならないと思うのと同時に、ほんの少しのズレ、音量の調整ミス等により、逆に他の楽器を邪魔してしまうという難しいポジションだと実感している。

入会して鉦を習い始めてから今まで、頭ではそういうポジションだと分かっているつもりで練習してきたが、『助ける』ということは、到底できていなかった。実際、『助ける』というのは『邪魔をしない』とイコールではなく、他の四つの
楽器と一体となるように、自分がミスをしないのはもちろん、自分以外の仲間のミスという穴もとっさに埋め、さらに見ている人が楽しくなるような、いいリズムへ導いていく、ということだと思う。

そして、いいリズムができれば、それぞれお互いの文句も入れやすくなり、
いい練習、いい演奏ができ、技術の向上に繋がる。鉦を練習してきて、今
まで、会長や先輩に言われてきた『助ける』ということが、ようやく理解できてきた気がする。それでもまだ『助ける』に関しては、理解できたというスタートラインに立ったばかり。鉦というポジションとは・・・ということを日々考えて
練習していきたい。














出演での演奏





貫井囃子保存会はありがたいことに、日々、たくさんの出演をいただいている。私も鉦として出演する機会が増え、色々な出演会場を経験している。ひとつひとつの出演で大切なのは、会場の状況と、お客さんの状況だと思う。

まず会場の状況で音色を、そしてお客さんの状況でリズムなど全体的な雰囲気を考えていけるのが理想と思っている。音色も、リズムなどの全体的な雰囲気も、
五つの楽器がそれぞれ瞬時にその場の状況を感じとり、盛り上げ、さらにお客さんをおどけさせる踊り、ときにはいい意味でびっくりさせる踊りが加わり、いい演奏が出来上がると思う。この会場の状況と、お客さんの状況の二点を確実に感じとり、演奏していきたいと思う。



















その他の楽器との関係




五つの楽器で、「ここはこう文句を入れてみよう」とか「こう来るんだったら私はこう入れる」、ときには「そうきたか〜」など、互いに掛け合いをするのはとても楽しい。それには、常に他の楽器を聴くようにしなければならない。最初は、自分の文句を間違えずに入れることで精一杯で、他の楽器の音がなかなか耳に入ってこなく、
五人で演奏する本来の楽しさが分かっていない時期が続いた。他の楽器を聴くように意識し始め、まずはお囃子にとって楽譜代わりの、笛がよく聴けるようになってきた。

その後、私の場合は、大胴、頭、しりの順で聴こえてくるようになってきた。とくに今は、私の場合だけかもしれないが、大胴が鍵になってきている。大胴を聴くことで、自分の流れをつかんでいるのだと思う。そのため、大胴に後輩の子達がつくと、
とくにやりづらくなってしまう。

大胴だけに限らず、五人それぞれが互いに影響してしまうので、他の楽器のことを各自が考えられれば、自分達も楽しく、それがお客さんにも伝わるような演奏が
できるのだと思う。














音色について





鉦は小さい音、おさえた音を出すのがとても難しい楽器だと思う。もちろん、大きくて綺麗に響く音を出すのも難しいが、金属音ということもあり、とにかく目立つので、
自分が他の楽器とのバランスを考えて音を出しているつもりでも、「大きすぎてうるさい」「ガチャガチャして聞こえる」等、注意を受けることが多い。

音の強弱を細かく、たとえば十段階出したい箇所でも、いっきに音が大きくなってしまい、二段階、三段階になってしまったりすることが多い。まだ訓練中だが、手首はもちろん、指の微妙な力の入れ具合で、かなり音が変わってきてしまうので、自分が客席で聴いていたらどうか、という客観的なイメージを描くように心がけ、ひとつ
ひとつの音を出したいと思っている。

















練習について





私が日頃の練習で心がけていることは『落ち込まない』ということだ。
今まで鉦の練習のなかで、大失敗や、注意されていることが頭では分かっていても手が動かない等、たくさん落ち込んできた。教えてくださる会長や先輩に嫌な思いをさせてしまったこともあると思う。これは自分が後輩達を教える立場になって、
改めて気付いた点でもある。

落ち込まないといっても、なげやりに練習するのではなく、受けた注意を、とにかくチャレンジして立ち止まらないことが大事なのだと思う。また、後輩を教えるということで、教えているからこそ、自分も完璧にやらなくては・・・と思うようになってきた。指導することに関しては、まだまだ初心者なので、自分の技術も磨きながら、指導者としての技術も付けていきたい。